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「今日の業績」に責任を負わされている上司は、「明日の準備」活動に熱心な部下の行動には内心あまりよく思わないことが多い。
「明日の準備」をする活動を妨げる要因は、普通の企業にはたくさんある。
「明日の準備」をする活動を支援する、賞賛するなど、評価の仕組みが大切になる。
普通の企業で「問題」というのは、業界レベルに達していないことを指している。
生産活動であれば、品質(Q)、コスト(C)、納期(D)が業界以下のレベルであれば問題とされ改善が始まるが、業界レベルまで到達できれば改善活動は終了する。
それ以後は維持管理のための活動が継続されるだけで、一般企業ではこれを改善活動と呼んでいる。
二時間の段取り替え時間を帰納法による問題解決型で改善して一時間にまで短縮できれば、これで業界レベルでは圧倒的にナンバーワンである。
この数値をだれも問題には感じないのが普通の企業である。
T方式では、これが問題であることを顕在化させて三分に縮めることができたわけである。
会社内において、このような「常識はずれの改善活動」を展開しようと思えば、トップのお墨付きが不可欠になる。
自主的な活動を始めた仲間集団が生まれてきても、その活動が正式に認知される仕組みがなければ広がるはずがない。
「今日の業績向上」についてはピラミッド型組織で推進される。
「明日の準備」活動を行う仲間集団型非公式組織は、通常、会社としてその活動を推進する機構を持たない。
TにおいてO方式が展開できたのは、ピラミッド型組織の機械工場長であったO氏が言い出し屋で始めたからである。
自分の管轄する組織内では「明日の準備」活動をO氏が工場長として推進したのは当然である。
しかし、O氏がT(およびTグループ)の生産をすべて統括する担当役員になると、それが難しくなった。
そこでO氏は直轄の推進組織として生産調査室をつくり上げた。
T方式は、もともとはO氏が始めた常識はずれの改善活動から始まったと言える。
もちろん源流をざらにたどれば、O氏が「異常停止装置つきの機械」(ニンベンのある自働化)を「人間の脳は困らない限り知恵は出ないよ」という言い方をした。
そのためには問題を投げて現場に混乱を起こし、なんとか知恵を出して解決しようと全員で取り組む。
学んだのはTの社祖であるT佐吉翁の自動織機の発明にあり、「ジャスト・イン・タイム」という言葉はT氏の口から直接発っせられたものだ。
O方式は新しいシステムを構築する企業革新の仕組みに成長したが、初期の機械工場で常識はずれの改善活動を推進したのは、O氏というカリスマ性を持った人材パワーであった。
あるシステムが構築されても、それを動かしているのがキーとなる人材のパワーによるものである限り、その人がいなくなれば導入されたシステムが形骸化するのは当然だろう。
しかしO氏がTを退任した後も、さらに進化したT「革新」方式として今日まで発展し続けているのはなぜか。
異常が発生したらラインを止めるという生産システムが、「三年でアメリカに追いつけ」というスローガンからスタートして、どれほどの試行錯誤のプロセスを経てつくり上げられたかを、今日のTの工場で働く人々は特に意識をしていない。
入社したときからそうすることが当たり前の行動規範として理屈抜きで習慣化している。
この問題を顕在化する仕組みはTにとって「風土」となって定着したと言える。
だからこそ「Tの従業員ですら理路整然と説明できる人はあまりいない」状況になっているわけだ。
T方式は「まずはやってみよう」という風土をつくり上げた。
変わり続ける企業風土をつくることこそ日本企業の最大の課題になっている。
一九九○年代において日本企業が変化できずに今日まで来てしまったのは、企業革新する「仕組み」の欠如にあり、それが日本的経営の欠陥であることが露呈してしまった。
企業革新の方法論として、「自主的な常識はずれの改善活動」が戦後どのようにつくられ展開されたかを見てきた。
そこでも触れたが、T方式は日本の風土に合ったオリジナルな方法として考え出された日本的特色を強みとしている。
もともと低成長時代のグローバルな大競争を前提に、欧米に勝つために生み出された日本的経営方式であるところがユニークなのである。
O氏の著書『T生産方式』は、アメリカの単なる真似をいましめ、日本の独創を追求すべきことを繰り返し強調している。
戦後、自動車王国のアメリカから学んだものは数多く、QCやIE(インダストリアル・エンジニアリング)などのすばらしい生産管理技術を日本は導入して成果をおさめた。
しかし、これらの手法がアメリカの風土から生まれ、アメリカ人の努力によって生み出されたことを、日本人はしかと踏まえなければならないという。
これは第二の敗戦とも言われる今日の日本の状況に、警告しているようにも聞こえる。
Tの源流には社祖とされ、日本人に知能による世界挑戦を呼びかけたTがいる。
Sの欧米列強に対する「強烈な負けじ魂」が説かれる。
日本人を「只模倣の国民」と評する「白人」に対抗して、「日本人絶対の力のみを以て一大発明を遂げよう」と佐吉翁の熱意はほとばしり、闘志をむき出しにしている。
これがT氏の「アメリカに三年で追いつけ」の言葉につながり、日本オリジナルの技術を追求するというTの伝統をつくる。
敗れ去った日本的経営は結局はF生産方式をベースに日本的にアレンジしたものであり、日本の独創とは言えない代物であった。
「日本の風土に根ざした力」によって知恵で生み出した日本的経営こそ、世界に通用するオリジナルの経営ではないか。
その可能性をT方式に探ってみよう。
欧米の文化・風土では、全体(システム)のあるべき形(理想、構想)をまず描き、完壁で綴密な計画を立て、その全体に合うように分割した部分(サブシステム)を組み合わせて全体をつくり上げる。
これに対して日本の文化・風土では、全体のありたい形(願い、思い)をおおまかに描き、それを実現するためによりよい部分(サブシステム)をまずいくつかつくり、それらを寄せ集め、環境変化に臨機応変(柔軟)に対応しながら、よりよい全体(システム)に限りなく近づけていく。
この顕著な日米の違いの例として都市計画の進め方がある。
欧米型のアプローチであれば、T式企業革新の展開方法を描いてその通りに整然とした都市ができ上がる。
日本型のアプローチでは、一見雑然としてまとまりがない都市ができ上がる。
欧米の文明史観では自然を人間がいかに支配するか、進歩史観、科学主義、還元主義が主流をなした。
他方、日本では地震、台風、洪水、火災など自然条件による環境変化が激しく、自然の脅威に対していかにうまくつき合っていくか、自然と人間の共生、人々の助け合いが生き方の基本であった。
日本人はシステム思考が弱いと言われるが、T生産方式は「なぜを五回問う」といった方法論をいくつも編み出し、日本型システム思考とも言える方式を確立している。
これによって欧米型システム思考で考案されたF生産方式を凌駕するものを生み出している。
生産革新を企業レベルでとらえた「本社十工場」のシステム再構築を考えよう。
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